下平匠のこと 【あのミニパラは永遠に】

その頃のトリコロールフェスタは、冬のオフシーズンのマリノスタウンと決まっていた。
一部の選手は抽選イベントでないとサインはもらえないものの、それ以外の選手はテントに座っていて、早いもの順に写真撮影、もしくはサインを貰えるオペレーションだった。

「榎本哲也、抽選あかんかったー。どうする?」
当時、榎本哲也のスーパーセーブにハマりまくっていたうちの娘に落選結果を伝えると、ガッカリするかと思いきや
「じゃあ、たくみのサインをもらう。」
とサッパリ。
まあ、ディフェンスがお好きなこと。

ドゥトラの後継者として、マリノスが獲得した下平匠は、その年の開幕からスタメンで出場。入団当初の金色のマッシュルームカットは小生は個人的に余り好きではなかったし、最初はピッチ上で行方不明になることもあったが、ドゥトラが引退した夏頃には立派にその後継者としての地位を確立した。
今思えば、近年のマリノスにはまれにみる美しい世代交代だった。

髪も短く切ることで長い金髪の奥に隠れていた涼しい眼がハッキリし、その容姿はとても精悍かつ端麗で、ゴール裏からピッチを見る娘にとっては数少ないマリノスのアイドル的存在だったのだと。

トリコロールフェスタ当日、ゼロックスのビルを過ぎたあたりから裏道に流れる長蛇の列の後ろに並ぶも、その年の忘年会でお世話になったサポーターのお姉さんが「あらー、娘ちゃん!」と声をかけてくれて、おかげ様で入門後、見事に下平匠のテント近くのスペースをゲット。

娘はその日のために新調したミニパラを握りしめ順番を待つ。
緊張しながら下平匠にサインをミニパラにお願いすると、ササっとサインして
「ほい。」
そのハンサムフェイスからは想定できない、太くて低くて無愛想な声が発せられたとき、その声色に娘も一緒にいた小生も親近感が湧いた。
入団当初のマッシュルームカットと甘いマスクから、チャラチャラしたイメージが先行していたのだが、実はとても朴訥で、男気のある好青年だったのだね。
彼の関西弁はとても自然で関西人の娘にも小生にも親近感をすごく感じる。

マリノスに来てくれてありがとう。

ファンなんてアホなもので、こんなちょっとしたふれあいでもう少しだけ踏み込んで下平匠を見るようになった。
ピッチでは独特のリズムでプレイを組み立て、ゴールに繋げる決定的なスルーパス、ピッチ外でハローワーク朴訥で淡々とした関西弁が、下平匠ならではの持ち味でスポーツマンらしい魅力だった。
クラブへの貢献度は言わずもがな。
ドゥトラから渡されたバトンをしっかり受け取った彼が演出した決定的なプレイがすぐにいくつも思い浮かぶ。

ここ2年は本当に出場機会が少なく、下平匠は出場機会を求めて千葉に行く。

特に最近匠が起用されなかった点については首を傾げるサポーターも少なく無いし、これからのマリノスにとって結局何が正しいのかは現在の我々にはわからない。
まずは半年、マリノスの趨勢を見ながら千葉での下平匠の活躍を見届けようと思っている。

マリノスに来てくれてありがとう。

あの時のミニパラは、今や着ることのなくなった榎本哲也のユニフォームと一緒に娘の部屋の箪笥の引き出しに閉まってある。
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